様々な美
降り続いた雨がようやく上がり、槍沢の紅葉に包まれた風景を望むことができました。
紅葉の鮮やかな色彩に対して、沢の流れが創り出す清らかな白が美しく際立ちます。
このように自然が創り出す美しさには様々な形があることを、身をもって感じる瞬間があります。
古代ローマ皇帝、マルクス・アウレーリウスの「自省録」には以下のような言葉があります。
自然の出来事の随伴現象にもまた雅致(風流な味わい、上品な風情)と魅力があるということだ。
穀物の穂がしだれているのや、獅子の額の皮や、野猪の口から流れ出る泡や、その他多くのものは、これを一つ一つ切りはなして見ればとうてい美しくはないが、自然の働きの結果であるために、ものを美化するに役立ち、心を惹くのである。(一部抜粋)
約二千年前を生きたアウレーリウスの高い感性と優れた洞察眼が伝わってきます。
では、この槍ヶ岳においてはどのような心惹かれるものがあるでしょうか。
私の主観となりますが、縄張りを守る雄の雷鳥の鳴き声がそれに当たるものと感じます。
また、多くの草花が枯れゆく姿にも心を惹かれます。
厳しい環境の中で芽吹き、成長し、実り、最後を向かえようとしている姿。
強く生きる成熟の美をみることができます。
目に見えるものだけに囚われず、様々な形の美しさを感じられるということ。
そこには、感動と大きな可能性があるのではないかと思うのです。
長谷川